ミリヤム・プレスラー著、松永美穂訳『マルカの長い旅』(徳間書店刊)を読んだ。 前に読んだ『卵をめぐる祖父の戦争』と同じ時代に、ナチに追われて逃避行を続けつつ、途中でやむなく生き別れ、再び母子が巡り会うまでが描かれたドキュメント風の小説である。 急迫した事情の中で、地元の人間に託された7歳の女の子の視点と、彼女を置いて先へ進まなければならなかった母の心理的葛藤が描かれている。 子どもの本の売り場に置かれていた本だけれども、中高生向けと言うことだろうか?
内容はなかなか厳しい現実がリアルに描かれていて、ポーランドのユダヤ人ゲットーの中で、子どもが一人だったから逆にナチの追求から逃れる「すき間」があったということかも知れない。 これが母子が一緒だったら「強制移送」からは逃げられず、共に収容者へ送られていたことだろう。 作者は実在するマルカ・マイに直接インタビューし、記憶が定かではない部分を創作でつないで小説にしたと後書きに書いており、多くは事実に基づいて描かれているということだろう。 この小説の最後から、マルカはどの様にして平静な心を快復していったのだろうか? 母子の人間関係もどの様にして紡ぎ直したんだろうか? さらにもう一人の思春期の姉との微妙な関係もどの様に修復されたのだろうか? 気になることをいっぱい残しながら小説は突然幕を閉じてしまう。
とっても可愛いい7歳のマルカの知恵、人間を信じられなくなる絶望感、心を許した「友」との突然の別れ、一人の人間が生涯で味わう辛酸を短い期間になめ尽くすかのごとき数多くの経験、…読んでいて心がふさがれる思いがした。私たちの国が第二次大戦中に行った数々の蛮行の中でもきっと数多くの「マルカ」が居たに違いない、中国残留孤児と言われる人達も、マルカとは立場は逆だけれども、言葉には尽くせない体験をされてきたのだろうと思う。
寒い日が続いている。東京では今年になってからまだ一度も雨が降っていない。空気はカラカラである。日本海側の大雪とは対照的である。本格的な冬型気圧配置のせいらしい。
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