もう30年以上も前のことになるけれど、週に一回岸和田へ仕事の応援で出かけていた。南海本線を利用して、確か蛸地蔵という駅で降りて、岸和田城のそばの職場へ歩いて通った。小さなお城だったけれど、綺麗に整備されていて目の保養にもなった。砂利が敷き詰められた城跡の公園?の一角にお店があって、おでんを作って売っていた。このおでんは、どう見ても行き交う人たちが巻き上げる砂埃がいつも入っているように見えて、どうも食べることが出来なかった。
だんじり祭りのことは知っていたが、ある時、だんじりの「試し引き」?の日が丁度僕の応援の日で、この勇壮な祭りに遭遇することになった。試し引きと言いながら、ほとんどお祭りそのもので、ただただびっくりさせられた。何度もけが人や死者が出ると聞いていたので、びくびくしながらだんじりが疾走してくるのを間近で目撃した。歓声を上げながら小さな子ども達がロープを手に持って走ってくるところから始まり、徐々に年齢の上の人たちが走ってきて、そのそばを転んだ人を列から引き離す役割の人たちが一緒になって走っていて、転んだ人が次々と列の外へ「放り投げられる」ように引き離されていた。このお祭りのクライマックスが、「やり回し」と言って、交差点を走りにながら大きな「だんじり」が直角に回って通過する時であるらしく、だんじりの屋根の上には人が両手に扇子を持って乗っていて、慣性の法則に逆らうかのように踊っているので、時には落ちたり、時にはだんじりそのものが倒れて人が下敷きになったり、狭い道で、両側の壁や電柱との間に人が挟まれたりするという。「何てアホなことをするんやろう」と思っていたが、間近で目撃すると、血湧き肉躍るというか、本当に興奮の坩堝に巻き込まれてしまうのを禁じ得なかった。
このだんじりは、とても細かい彫刻が全面を覆っていて、それ自体も一見に値するけれど、この走り回る時のだんじりとそれを取り巻く人々の熱気は狂気を実感するものだった。
毎年の9月15日だったと思うけれど、この目撃場面は忘れられない。